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東京高等裁判所 平成2年(ネ)1379号 判決 1990年8月29日

控訴人 川上龍雄

右訴訟代理人弁護士 飯田秀人

被控訴人 甲野太郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す

2  訴外乙山春夫が被控訴人に対して昭和六二年一月一日から平成元年九月二二日までになした各報酬の支払いを取り消す。

3  被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張並びに証拠の関係は、原判決書二枚目裏三、四行目にかけての「報酬として一〇〇万円を越える金員を被告に支払った。」を「着手金もしくは報酬として二〇〇万程度の金員を被控訴人に支払った。被控訴人の金員受領は、控訴人ら多数の債権者を差しおいて抜け駆け的に弁済を受けたものであり、詐害行為に該当する。」に、原判決書三枚目表一行目中「3の事実」を「3の事実のうち、被控訴人が前記各事件を受任したことにより、一〇〇万円の限度で着手金もしくは報酬を受領したことは認めるが、それを越える額を受領したこと及び右金員受領が詐害行為に該当することは」にそれぞれ改めるほか、原判決事実摘示第二、第三と同一であるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決書の理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決書三枚目表九行目中「報酬として」から同一〇、一一行目にかけての「仮定すると」までを「前記各事件を受任したことにより、一〇〇万円の限度で着手金もしくは報酬を受領したことは被控訴人も認めるところであるが、被控訴人がこれを超える金員を受領したことについては証明がない。そして」に改め、同三枚目裏一行目の「到底、」を削る。

2  原判決書三枚目裏五行目の「到底、」を削り、同行の次に行を改めて「控訴人は、乙山は詐欺被告事件で有罪判決を受け、免責も不許可になった者であって、同人には控訴人のほかにも多数の債権者がいて、いずれも全く弁済を受けていないのに、被控訴人がこの事実を知りながら前記各事件を受任して着手金もしくは報酬を受領したことは、それ自体で詐害行為に該当する旨主張する。しかしながら、資力に乏しい債務者、破産者ないしは刑事事件の被疑者であっても、弁護士に事件を委任し、これを受任した弁護士が依頼者から着手金もしくは報酬を受領することは、その金額が不相当なものでない限り、非難されるべき根拠はない。債権者にしてみれば弁護士に委任して着手金もしくは報酬を支払う資力があるくらいなら、せめて債権者への弁済に充てるくらいの誠意を示してしかるべきだと思うのも理解できなくはないが、資力に乏しい債務者、破産者ないしは刑事事件の被疑者であるからといって、自己の権利ないしは利益を守るため法的に認められた手段を採ることまで禁じられるいわれはない。そして弁護士に事件を委任した場合に、相当な委任の対価を支払う義務が生じることもやむを得ないものである。控訴人の主張は債権者の立場に片寄りすぎるきらいがあって採用できない。」を加える。

二  以上のとおりであって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 滿田明彦 亀川清長)

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